◇《書籍紹介》「動物園学」※ニュースレター28号より

 八代田真人(岐阜大学応用生物科学部)




 本書は,「Zoo Animals: Behaviour, Management, and Welfare (Oxford University Press, 2009)」の訳書で,15章で構成され,索引までを含めて600ページを超える大部である。邦題が「動物園学」となっている事に違和感を覚える方もいるかもしれないが,本書には動物園動物のことだけに限らず,動物園の歴史と理念(2章),動物園を取り巻く法規制(3章),動物園で保全(10章)および研究(14章)を行う意義までが触れられていることを考えると,適切なタイトルとも言える。最近,いくつもの大学で「動物園学」や「動物園動物学」などの講義が開講されているが,本書はその教科書としても十分に活用できるだろう。


 本学会の会員は,行動(4章),動物福祉(7章),環境エンリッチメント(8章),人と動物の関係(13章)にまず興味がいくと思うが,原題のサブタイトルがあらわすように,本書のすべての章においてwell-managementとwell-fareが関係してくると言っても過言ではない。したがって,動物園動物に興味のある学部生や大学院生には,自分の研究対象とする章だけでなく,できるだけ多くの章を読みこなすことを勧める。また,すでに専門分野が確立している人にとっては,専門とする章の内容は,対象が動物園動物であることを除くと,やや浅い印象を受けると思うので,むしろ普段は読まない分野に目を通してもらいたい。例えば,「飢えと渇きからの解放」とは単に餌と水を与えるのではなく,適切な栄養素を必要量給与することを意味するのは言うまでもないが,動物園動物の栄養要求量を推定し,飼料設計をするにはどうしたらよいのか(給餌と栄養,12章)? 動物園の重要な使命の一つは「次世代の繁殖」にあるが,限られた飼育スペースの中で,繁殖適期を過ぎた個体をどう扱うのか(飼育下繁殖,14章)?といった問題は,決して無関心ではいられないだろう。この他に,動物の個体識別と記録管理(5章),飼育施設と飼育管理(6章)および健康(11章)といった,講義としては扱いにくいが,現場サイドではとても重要な内容も取り上げられている。繰り返しになるが,やはり動物園もしくは動物園動物に興味があるなら体系的に学ぶ必要があり,そして本書はその役割を十二分に果たせるだろう。






 最後に本書に関する情報を2つ付け加えておきたい。まず重要な情報として,本書は出版社である文永堂(http://www.buneido-syuppan.com/)から直接購入することをお勧めする。amazonにはすでに在庫がなく,中古本で値がつりあがっている(2012年4月20日現在)が,出版社には在庫がきちんとある(転売して儲けようということを考えてはいけない)。もう一点,訳者の一人としては言いにくいことだが,訳書という事情から原書に比べてかなり値段が高い。大部の専門書の訳書で1万円を切るのはかなりがんばっているのだが,原書は信じられないことに4,270円で売っている(これはamazonで買える)。とくに学部生や大学院生が,原書の専門書と格闘するなら,教員の一人としてはそれを勧めたい。


 最後の最後に,もう一言。私はおそらく訳者の中では唯一,昔も今もこれからも家畜が専門の研究者である。その立場から動物園動物に強い関心がある学生および大学院生に言っておきたいことがある。本書の随所に述べられているが,動物園動物を考えるための基礎となっているのは,ほとんどが家畜の研究から得られた知見である。動物園動物のことばかり関心があり,家畜のことなどまるで関心のない学生にしばしば出会うが,そういう態度は学問的基礎を欠き,いたずらに自分の知識を貧しくしているということも,本書を読めばわかるはずである。