◇《書籍紹介》※ニュースレター26号より
  「動物行動図説:家畜・伴侶動物・展示動物」

伊谷原一(京都大学野生動物研究センター)


本年9月10日、「動物行動図説:家畜・伴侶動物・展示動物」が朝倉書店から刊行された。


 実は、1995年に「家畜行動図説」の初版が出版されている。当時は世界的にみても動物の行動目録に関する書籍が乏しかったことから、まずは家畜行動に関する書籍を世に出すということでパイオニア的な役割を果たした。決して十分とは言えないまでも、写真をもとに分かりやすく解説したという点で利用価値は高かった。


 今回刊行された「動物行動図説」は、タイトルが「家畜」から「動物」に変わったものの、できる限り1995年版の行動区分を採用しており、そういった意味では「家畜行動図説」の進化版と言ってもよいであろう。動物種数が増えた分、行動の整理には苦慮したが、それだけ動物行動の多彩さを示していると言えるかもしれない。


 対象とした動物種は、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ニワトリという6種の家畜に加え、伴侶動物や展示動物としてイヌ、ネコ、クマ、チンパンジーの4種が追加された。これは、人間の生活様式や社会環境の変化に伴い、伴侶動物、つまりペットとしてのイヌやネコが私たちの生活に深く関わっていることを反映している。


 一方、主に展示対象となる動物園動物は本来野生動物であり、人為選択の歴史を持たないという点で家畜や伴侶動物とは一線を画する。本来、野生の生息地でしか出会えない動物を身近に見られるというレクリエーション的な要素が強かった動物園だが、近年は環境教育や生涯教育の場として注目されつつある。また、行動学、遺伝学、生理学、認知科学、保全学といった学術分野では、動物園動物を対象とした研究が盛んに行われるようになっている。わずか2種とはいえ動物園動物を取り上げたことで、今後、より多くの動物を対象にしたさまざまな研究が展開される一つのきっかけとなることを願っている。


 「文化的行動」に触れたことも特徴のひとつである。その代表例としてチンパンジーの「道具使用行動」を行動類型に入れている。数十年前までは、動物学の世界に「文化」という概念は決して登場してこないものであった。言い換えれば、「文化」などという崇高なものは人間固有のものとして扱われていたのである。しかし、チンパンジーに限らず、最近はさまざまな動物による文化的な行動が指摘されている。また、類似した行動であっても、種によってその行動の意味が異なる場合も少なくない。種による行動の特異性を深く理解するためには、新たな行動類型を取り入れることも重要であろう。


 「データのまとめ方」には新しい分析方法が追加された。行動の解析に用いられる統計計算法について詳細に解説されているわけではないが、複雑な動物行動データにおいて、どのような統計的方法が適切であるかが分かりやすくかつコンパクトにまとめられている。必要に応じてより詳細な専門書を参考にする指標としては有効なものとなる。


 本書は、幅広い動物種の行動を、写真を使って比較することを試みた挑戦的な企画である。それぞれの写真をじっくりと見比べていただきたい。動物たちの表情やジェスチャー、ポスチャーの多彩さを再認識されるだろう。自分が研究対象とする、あるいは興味を持っている動物が見せる行動の意味を知ることで、新たな動物観が生まれてくるに違いない。動物行動を深く理解するという意味ではまだ不十分なものかもしれないが、成長途上にある本ということで、今後のさらなる発展が期待される。