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NEWSLETTER of The Japanese Society for Applied Animal Behaviour, No.26, July 2011

 
◇応用動物行動学会・日本家畜管理学会共催 
 2011年度秋季シンポジウム報告

 小針大助 (茨城大学農学部附属FSC)








 去る8月25日、灼熱の関東とはうってかわり、涼風がさわやかに吹き抜ける青森県十和田市の北里大学獣医学部で、2011年度の応用動物行動学会・日本家畜管理学会共催の秋季シンポジウムが開催された。本来は新体制への代替わりとなる3月の時点で仕事を引継ぎ、新たなシンポジウム担当として私がいろいろ動かねばならなかったのだが、震災で春の大会がなくなってしまったこともあり、直接引継ぎ等の相談もできないということで(言い訳?)、引継ぎ猶予期間を設けていただき、実質的には前シンポジウム担当幹事であった宇都宮大学の青山先生と今回の担当校の責任者であった松浦先生におんぶに抱っこでシンポジウムの準備をしていただいた。青山先生はその後9月に開催されたAnimal2011の準備、松浦先生は本シンポジウムに平行して開催された日本畜産学会の運営もあった中、大変なご尽力をいただき本当にありがとうございました。冷房の使用禁止令が発令された(うちの大学のみ?)関東の酷暑の中で、すでに脳がゆでダコ状態になり、突然鼻血が噴出したりと、抗暑反応の末期症状を呈していた小針のみでは到底取りまとめることはできませんでした。この場をお借りして御礼申し上げます。

 当日は、各大学の大学院入試等で忙しい中、発表者も含めて33名の参加者があった。今回は久しぶりに恒例の若手会員の発表会ということで、新進気鋭の3名の会員に発表をしていただいた。麻布大の堂山さんはイノシシの学習と認知能力、北里大の小木野さんは外部環境とウシの生体リズムとの関連性、岐阜大の亀井さんは放牧地を利用するシカの生態と三者三様の内容であったが、これも人とかかわりのある様々な動物を研究対象とする本学会の大きな特徴だろう。それぞれのテーマでは、特にイノシシが意外に視覚に対する依存度が高いといった話題や飼育方式でウシの生理リズムがビビッドに変化するといった話題、シカが禁猟期を計算したかのように移動しているといった報告は、非常に興味深く、参加者たちの興味を引いたようであった。一方で、公表されたこれらのデータは、発表者の日ごろの地道な努力の成果であり、やはり発表という形で今回日の目をみせてあげられたのは、非常に良かったなぁと感じられた。3月に卒業してしまった学生さんには、頑張って研究したのに発表会を設定してあげられなくてちょっと心残りがあったので・・・。




この後、シンポジウムでは第2部として、岩手大の出口先生から震災支援募金についての経過報告と東北大の佐藤衆介先生から福島第一原子力発電所の爆発事故に伴い、原発の20 km 圏内に取り残されたウシの保護プロジェクトについての報告があった。本取り組みについては、学会としても協力いただければということであったが、特に活動資金があるわけでもないので、当面は、協力学会員から構成した特命チームにより、現地の継続的な調査を行い、それと平行して助成金等への申請等を行っていくとのことであった。




 最後に懇親会について。こちらも松浦先生の多大なるご尽力により、青森の美酒に囲まれながら、老いも若きも入り乱れて非常ににぎやかな会となった。当夜の熱気は、けっして小雨で蒸したせいだけではないだろう。ちょっとはにかみながら「ISAE !」の掛け声で会員の一致団結を図ったU竹先生のせいだけでもないだろう。これは我々の学会がもつエネルギーの熱気だったのではなかろうか?次は春!今後もシンポジウムをますます盛り上げていきたいと思いますのでご協力よろしくお願いします。




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応用動物行動学会シンポジウム参加報告



中屋 まりな(酪農学園大学大学院酪農学研究科 修士課程2年)







 8月25日に青森県十和田市の北里大学にて行われた、応用動物行動学会2011年度秋季シンポジウムに参加したので報告いたします。


 第1部は若手による研究発表会で、島根県・麻布大学の堂山さん、北里大学の小木野さん、岐阜大学の亀井さんの3名が発表されました。堂山さんは「迷路実験におけるイノシシの学習および空間認知能力に関する行動的研究」という、大型野生哺乳類についての珍しい研究でした。空間認知能力を量る迷路実験では、簡単な迷路に板が一枚追加される(スタートからゴールまでの道が複数ある様に見える)だけで正解率が大幅に低下するとのことでした。迷路実験の結果から、未知数であったイノシシの学習能力が、牛やネコと同程度かそれ以上であることが伺われたようで、イノシシへの印象も少し変わったような気がします。今後は、農作物の食害に対する応用が期待されます。


 続いて小木野さんが「外部環境刺激に対する牛の生態リズムに関する研究~生理学的および行動学的指標について~」というタイトルで発表されました。放し飼い・不断給飼条件と、繋ぎ飼い・制限給飼条件でそれぞれ飼養される牛の生態リズムの比較がなされ、繋ぎ飼い・制限給飼条件下で、採食や反芻行動、休息行動などに季節変動が大きくなるということがわかりました。印象として、繋ぎ飼いより放し飼いで季節の影響を受け易そうに感じたのですが、全く逆の結果で、実験の面白さを感じました。供試牛が日本短角種とのことなので、ホルスタイン種でも同じ様な結果が得られるのか、非常に興味深いです。


 第1部最後は、亀井さんが「野生ニホンジカの牧草地利用の解明とそれに基づいた誘引捕獲技術の検討」というタイトルで発表されました。GPSでシカの行動を追いかけた調査では、シカが狩猟期前に牧草地付近から移動し、狩猟期間の終了と共に再び牧草地へと戻ってくるということがわかり、人間の活動を理解しての移動なのか、この個体が偶然そのように移動したのか、謎は深まるばかりです。誘引餌を選別する段階の調査では、シカよりもカラスやタヌキなど他の動物を引き寄せてしまうトラブルもあったようです。最終的に開発された牧草過繁パッチは、農家さんでも設置できそうなものなので、将来的には普及させることも可能なのではないかと考えました。


 第2部では、東北大学の佐藤衆介先生から「福島原発20km圏内に取り残されたウシの保護プロジェクト」についての報告がありました。実際に先生方が20km圏内の牧場に行かれた際に撮影された写真が紹介されましたが、スタンチョンに繋がれたまま息絶え、白骨化した牛たちの姿は、非常にショッキングなものでした。すぐに戻れることを期待して、牛たちを繋いで避難されたのであろう農家さんのことを考えると、言葉もありません。震災から半年以上が過ぎ、農家さんの許可を得て殺処分された牛もかなりの数になったかと思います。しかし、家畜としての価値はなくなってしまっても、それまで農家さんが大切に育て、養ってきた命であることに変わりはないはずです。殺処分するのも、保護して研究利用するのも、どちらも人間の都合でが、私は、今後のためにも、有効に利用していくべきであると感じました。


 今回の学会は、初めての一人旅、初めての青森県ということで、シンポジウムや日本畜産学会での発表よりも、無事十和田に到着できるのか不安なところから始まりました。しかし、地元でお世話になっている獣医さんの出身校ということで勝手ながら親近感を抱いていた北里大学は、豊かな自然に囲まれた素敵な大学で、シンポジウムでは若手研究者の方々の発表で学ばせていただき、終わってみると大変貴重な経験になったと思います。一回りとまではいかなくても、少しは成長できたと信じ、これから修士論文作成に取り組んでまいります。



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「Animal 2011」(日本動物心理学会・日本動物行動学会・応用動物行動学会・日本家畜管理学会 合同大会)報告

 青山 真人 Animal 2011担当幹事(宇都宮大学)






 2011年、9月8日~11日の4日間、慶應義塾大学三田キャンパスで、日本動物心理学会、日本動物行動学会、応用動物行動学会、日本家畜管理学会の4学会合同の大会が開催された。初めての試みであった。計画が具現化した昨年2010年度に、青山が応用動物行動学会のシンポジウム担当幹事であったために、実行委員の一人となり、準備等に少し携わった。青山がこの大会を語る際に、外せないのが3月11日の大震災である。妻の実家(宮城)が被災した。幸い妻の親類は皆元気であったので心理的には深刻にはならなかったが、様々な対応に追われた。Animal 2011は、もちろん楽しみであったのだが、6月末くらいまであまりAnimal 2011の準備のために時間を割く気にはならなかった。しかし、今思えば、もう少しAnimal 2011の準備等に時間を割けた気がする。次に似た機会があれば(もちろん実家が災害に会うのはもう御免こうむるが・・)、もう少しうまく立ち回ろう。


 大会2日目(9日)には、応用動物行動・日本家畜管理学会(以下、「応用・管理」)企画シンポジウム「彼を知り己を知れば・・・―動物の行動特性を生かした害獣・害鳥・害虫対策―」を開催した。青山はオーガナイザーを務めた。テーマにかかわらず、青山の中では、①応用例を重視する、②日本動物心理学会(以下「動心」)や日本動物行動学会(以下「行動」)の会員にも興味を持って頂く話題にする、③若い研究者にお願いする、の3つにこだわることは決めていた。テーマ設定は、実は自分の中でかなり難航した。当初、家畜管理1題、展示動物の環境エンリッチメント1題、野生動物被害対策1題、という案も持っていた。しかし、最終的に、応用例として最も分かりやすいと考えた「野生動物被害対策」を共通テーマと決めた。まず、堂山宗一郎氏(島根県:前麻布大)にイノシシの学習の話しを紹介して頂いた。


 堂山氏については、もう説明の必要はないだろう。江口祐輔先生らとともに大学院生時代はイノシシの研究をされ、現在はまさに島根県でイノシシの被害対策について現場で仕事をされている。学習能力の測定という点で、実験動物の世界でも用いられているHebb-Williams迷路や水迷路を応用した点もあり、動心の人たちにも興味を持って頂けたようである。青山個人は、迷路において、一度間違いの経路に入って元の場所に戻ってしまったイノシシが、もう一度間違った経路に入るが、途中で引き返して一つ奥の正しい経路に入った映像が印象に残った。この行動は何らかの偶然かも知れないが、イノシシは、少し過去のことを思い出し、考えた末に行動を修正したように見えた(このシンポの翌日は、動心企画の擬人主義のシンポが開催された・・「思い出しているように見えた」はタブーか?)。

堂山宗一郎氏(島根県:前麻布大)



 2人目は、塚原直樹氏(宇都宮大学オプティクス教育研究センター)にお願いした。カラスが紫外線(ヒトには感知できない短い波長の光)を認識できることを、弁別試験を用いた行動学的にも、眼球の性質(網膜の視細胞等の形態学や生化学的解析、光の入り口とも言うべき角膜の光学的解析)などの証拠を挙げ、さらにこの能力を逆に利用し、「カラスは中が見えないがヒトには中が見える」黄色いごみ袋などのアイディアを示された。

塚原直樹氏(宇都宮大学オプティクス教育研究センター)



 3人目は、八島圭佑氏(東京農工大学大学院:宇都宮大学配置)に寄生バチによるアブラムシの行動制御とその応用について講演を頂いた。寄生生物による宿主の行動制御は、近年様々な例が知られるようになり、Animal 2011の一般講演の中にも、幾つか発表が見られた。寄生バチAphelinus varipesはアブラムシに寄生するが、成虫になり宿主から出てくる直前になると、その宿主を操り「物陰に隠れさせる」。その特質を利用し、寄生バチを宿したアブラムシを効率よく回収し、「生物農薬」として利用しようというアイディアである。行動の会員に興味を持たれるように設定したのだが、やはり、八島氏の講演に対しては行動の会員の方からの質問が多かった。

八島圭佑氏(東京農工大学大学院:宇都宮大学配置)



 ちなみに、今回のシンポでは、3人中2名に宇都宮大学の研究者を選んだが、青山が宇大をひいきにしたためでは決してない。塚原氏(と杉田昭栄教授)を選んだのは、カラスをはじめとした鳥類が紫外線を感知できる事実は、生態学分野、あるいは認知を対象とした心理学分野の先生にも、興味を持って頂けると考えたのである。また、八島氏(と村井保教授)の寄生生物による宿主の行動制御は、上述したように行動からの一般講演にもあった。当初、青山は行動の会員からの人選を試みたが、寄生バチ自体の研究はあってもその応用を目指している研究は見つけられなかった。一方、寄生生物のこの特性を害虫被害防除に役立てようという試みは、宇大以外にも、多くの大学や研究機関で試みられている。八島氏のテーマは、シンポジウムで紹介する例として、他の研究機関で行われている研究テーマと比較しても遜色ないと判断し、お願いしたのである(それに、知り合いの方が頼みやすい・・)。後で八島氏と村井先生に伺ったのだが、寄生バチの応用について研究されている先生は、ほとんど日本動物行動学会には所属せず、「日本応用動物昆虫学会」という別の学会に属しておられるそうである(ちなみに、この紛らわしい学会名のために、村井先生宛ての郵便物が青山へ間違って届けられたことが二度ある)。


 動心や行動企画のシンポや、ワークショップ、一般講演全体についても、普段聴く機会が少ない発表が多く、非常に興味深かった。しかし、動心、行動の先生方は、自らの研究成果について、その応用には関心が薄いことを少し異様に感じた。もちろん、役に立つことばかり追い求めるのは、自然科学の発展にはむしろ害になると考えている。しかし、科研費の申請のときなど、我々は(少なくとも青山は)、自分の研究が如何に役立つかを説く(ホラを吹く?)のに無い知恵をむりやり搾り出していることを考えると、やはり異様に感じるのを禁じえない。一般講演の中で青山が強い興味を持った一つは、中田兼介先生(京都女子大)の、クモの網(巣)の話しであった。クモは網の中心にいて、獲物が掛かるのを待っているが、その注意する方向が均一ではない。食物となる虫を引っ掛ける場所を左右or上下に集中させると、クモは獲物が引っ掛かる方向へ注意をシフトする傾向があるというものだ。青山はヤギを実験動物として使用しているが、ヤギを維持管理している農場では、当然夏になるとハエやアブやカが発生する。これらは実験中にうっとうしいだけでなく、家畜に有害な寄生生物を媒介する。この季節、クモが畜舎のそこら中に網を張るのだが、青山はこれを「天然ハエ取り紙」と称し、なるべく破らないようにしている。もちろん、作業の都合上、どうしても破らなければならない場所もあるが、毎日破っても、翌日(おそらく同じ個体が)また同じ場所に網を張っている。「いったい、どのくらいの頻度で破れば、コイツは場所を移動してくれるのか?」を研究テーマにしようと思ったこともあった。中田先生に発表後にこの考えを伝えたところ、獲物の取れ方によっては、場所を移動するクモもいることなどを教えて頂いた。将来的には、クモの行動を制御して、作業には邪魔にならない、適切な場所に網を張ってくれて、畜舎の害虫退治に応用できないものか・・・。今回のような合同開催が何年か後にまたあったなら、応用・管理で扱うテーマを純粋に自然科学として興味ある方向へ導く、また、動心、行動から出た研究テーマを「応用」へ導く、そんな場を設定してみたくなった。


 今回の4学会合同開催において、全ての実行委員の先生、特に準備から当日の運営まで、実質的な作業をこなして頂いた慶應義塾大学の渡邉先生、山崎先生、伊澤先生、埼玉医科大の菅先生、ありがとうございました。震災のせいもあってなかなか動き出さずにいて、申し訳ありませんでした。また、Animal 2011のスタッフのバイトを、アメリカ合衆国インディアナポリスで開催されていた第45回国際応用動物行動学会の場でいきなり依頼したにも関わらず快く引き受けて頂き、迅速に対応して頂いた帝京科学大学の伊東さん、川本さん、エジャートンさん、ありがとうございました。また、大会長をお引き受け頂いた日本家畜管理学会前会長の田中智夫先生と、本学会前会長の近藤誠司先生にも、お礼を述べたいと思います。特に近藤先生は、9月10日の午後に帯広でお仕事があったために当初9日のうちに北海道へ帰られる予定であったのを、9日の懇親会での挨拶を依頼したところ、北海道へ戻られる予定を遅らせて頂きました。最後に、Animal 2011に参加頂き、応用動物行動学会の存在を知らしめて頂いた全ての会員の皆様に、感謝致します。

  




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《報告》日本動物心理学会・日本動物行動学会・応用動物行動学会・日本家畜管理学会合同大会 開催報告

 櫻庭陽子(京都大学霊長類研究所 修士1年)・友永雅己(京都大学霊長類研究所)


 2011年9月8日から11日の4日間、4学会合同の「Animal 2011」が慶應義塾大学三田キャンパス(東京)で開催された。4学会合同ということだけあり、276件の発表に加え、公開合同シンポジウム1件、学会企画シンポジウム3件、公募ワークショップ9件、プレナリーレクチャー1件という大規模な学会であった(Animal 2011プログラム・講演要旨集より)。いずれのプログラムも「行動」をキーワードに、神経やホルモン、遺伝子といったミクロ分野から生態や進化(生き残り戦略)、害獣対策などのマクロ分野まで幅広く取り扱われていた。また対象も、アリ、クワガタ、カエル、イモリ、ヘビ、カメレオン、ジュウシマツ、ハト、イヌ、チンパンジー、ウシ、ゾウ、イルカなど、昆虫から大型哺乳類までと、様々な切り口で発表がなされていた。そのため、今まで自分があまり関わってこなかった分野について新しい知見を得ることができた。


<大会1日目 9月8日(木)>
 ・ワークショップ4件
 ・口頭発表、ポスター発表
 ・日本動物行動学会企画シンポジウム
  「せがむ子供と渋る親:Begging再考」


<大会2日目 9月9日(金)>
 ・口頭発表、映像発表、ポスター発表
 ・応用動物行動学・日本家畜管理学会企画シンポジウム
  「彼を知り己を知れば
    -動物の行動特性を活かした害獣・害鳥・害虫対策-」
・基調講演 Irene M. Pepperberg
「Numerical competence in Grey Parrots:
 Similarities to, and differences from, that of young children」
 ・懇親会


<大会3日目 9月10日(土)>
 ・口頭発表、ポスター発表
 ・日本動物行動学会賞・日高賞受賞講演
 ・日本動物心理学会企画シンポジウム
  「動物研究最前線:擬人主義とどうつきあうか」
 ・ワークショップ5件


<大会4日目 9月11日(日)>
 ・口頭発表、ポスター発表
 ・Animal 2011サテライト企画 日本動物看護学会講演会 桜井富士朗
  「イヌを用いた実験の洗練度向上のための動物看護技術の紹介」
 ・Animal 2011サテライト企画 4学会合同公開シンポジウム
  「イヌを学ぶ、イヌに学ぶ」


 今回の学会では昆虫類や爬虫類の生き残り戦略が、あまり自分の興味と関わってこなかったゆえに新鮮味があって面白かった。特に印象深かった発表が、「カメレオンの防御反応」(森哲・城野哲平、京大)と「クワガタにできる技とできない技」(本郷儀人、京大)であった。いずれも大会2日目の午前中におこなわれた「映像発表」である。映像という媒体を使用することで、よりわかりやすく、記憶に残りやすくなったことも、強く印象に残った要因のひとつだろう。「映像発表」という形態は、もともと日本動物行動学会がこれまでずっとおこなってきたものだ。映像資料には一長一短があるのは十分に理解したうえでも、やはり、映像の持つインパクトは極めて大きいと思った。応用動物行動学会でもぜひ取り入れてみてはいかがだろうか。


 ちなみに、前者は、カメレオンが体色を変化させて捕食者から身を隠すことはよく言われるが、実際は物陰(枝)に隠れることが多く、それは捕食者の視線によってそのような防御反応が現れるのではないか、という発表だった。枝隠れという防御反応が映像で紹介された。枝隠れという行動は、私たちが小さい頃にやっていたかくれんぼや鬼ごっこのように、鬼(この場合は捕食者であるヘビ)がやってくると、見つからないように木(枝)を軸にしてくるりと素早く身を木(枝)陰に隠すというものだ。カメレオンの体が縦にひらべったいことと、木をしっかり掴む手の構造はそのためにあるのではないか、そしてこの行動を引き起こすのは捕食者の視線がきっかけで起こるのではないか、と考察していた。実際に目を強調したヘビに対しては強く反応していたという。あのカメレオンの奇妙な体形が、食われるものの生き残り戦略の一つだということをよく理解することができた。


 また後者のクワガタの発表は、競合相手それぞれの生き残り戦略についてであった。日本を代表するミヤマクワガタとノコギリクワガタ、どっちが強いのか?!、という素朴な疑問から研究が始まったという点も面白い。ミヤマクワガタはノコギリクワガタよりも体が大きく、競合相手であるノコギリクワガタよりも優位であると考えられる。しかし、実際に食事場においてノコギリクワガタとミヤマクワガタの闘争を観察すると、ノコギリクワガタの方が勝つことが多かった。2種の闘争行動を比べると、ミヤマクワガタは上から大顎を使って挟み込む「上手投げ」しかおこなわないが、ノコギリクワガタはそれに加えて下から挟み込む「下手投げ」を使う。この技が、体の大きさでの不利を緩和しているのではないかと考察をしていた。この場合は同じ住処、同じ食べ物を食べる競争相手に対する戦略の違いがよく理解できた。行動一つ異なるだけで不利を覆してしまうところがとても不思議に思ったと同時に、自然界での競争の厳しさを強く感じた。今まで飼育下の哺乳類を中心に観察してきた経緯もあり、自然界の厳しさを実感してこなかった。そのため、彼らの生き残り戦略の見事さがとても新鮮に映り、強く印象に残ったのだろう。


 長々と生き残り戦略について述べたが、本来私の興味のある分野は動物園などで飼育されている野生動物のウェルフェアである。それも病気や怪我でハンディを負った動物を対象としたものである。今回サテライト企画として、桜井富士朗先生による日本動物看護学会特別講演があった。以前から「動物看護」という分野や職業、資格もあることは知っていたが、実際に動物看護学の講演を聴くのは初めてであった。コンパニオンアニマルが対象ではあるが、飼育下野生動物に応用できそうな、何かしらヒントがないだろうかと思い、講演を楽しみにしていた。先に感想を言ってしまえば、やはりペットと野生動物では全く違うということがよく理解できた。イヌを用いて体温の測り方や保定の仕方など、様々な看護の仕方を紹介してくださったが、どう考えてもゾウやキリン、チンパンジーなどに応用できるはずがない。桜井先生に「飼育下野生動物での看護学もあるのでしょうか?」と講演後に伺ったが、答えはノーだった。確かにハンディを持つ飼育下野生動物の介護や看護は決して多い事例ではない。一般化も難しい。しかし一番福祉を考えなければいけない対象だと私は思っている。他の飼育下野生動物のウェルフェアを考える上でも、このサテライト企画で「ペットと野生動物は違う」ことを再確認できた点では大切な収穫である。


 冒頭でも述べたように、様々な視点からの発表を聴くことができ、とても有意義な時間を過ごすことができた。ただ、いずれも朝から夜まで長時間のスケジュールであったため、疲れが蓄積されいつの間にかウトウトしていたということもしばしばあった。その点はコーヒーと適度な休憩が必要だったと、学会終了後一人反省会をしていた。

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◇Animal2011感想

 陳絲宇(東北大学大学院農学研究科)



 9月8日、朝早くに眠い目を擦りながら、多くの学術に溢れた慶応大学に到着した。学会はこの日から始まった。


 私は日本に留学してまだ一年しか経っておらず、まだあまり日本語に自信がなかった。そのため、学会の前にあらかじめ要旨集を読み、自分の研究に関連のある、または、興味がある発表を前もってチェックし、それに沿って見学していた。その中で、<脳とホルモンの行動学>という発表が非常に面白かった。<人間を含めた動物の行動は、この「脳からホルモンへ」と「ホルモンから脳へ」の情報のやり取りによって、非常に綿密に調節されている。また、その影響はこれまで考えられてきたように性と生殖に直接関係するものばかりではない。>という研究紹介を聞くことができ、非常に勉強になった。 その中でも特に、菊水先生の「犬において尿中オキシトシンが快適性の非侵襲的評価物質として有用であると証明された」という発表が非常に印象に残っている。


 今、私もオキシトシンに関する研究を行っており、日ごろからオキシトシンに非常に興味を持っていた。そのため、このような研究を行っている先生方と出会えたことは、本当にありがたく感じた。家畜福祉学においても、非侵襲的な家畜の快適性評価方法の確立は、家畜福祉の研究者たちの目標だと思う。オキシトシンの評価方法において今後、家畜においても尿や唾液等の非侵襲的な方法を用いたオキシトシン分析が出来ないか、考えていきたいと思った。


 今回の学会は日本動物心理学会、日本動物行動学会、応用動物学会、日本家畜管理学会の四学会共催の学術大会という、初めての試みであった。家畜行動の研究を行っている私は、初めて自分の専門分野とは異なる分野の研究に触れることができた。中国においては、動物の研究と言えば、獣医学と獣医学に関連する研究などを意味する。そのため、私は動物心理学分野に関して、心理学は動物の研究という印象がしなかった。また、家畜福祉や行動学の研究をやっている研究者もいるが、ごく少ないのが現状である。そして、行動学と言えば、主に豚の健康的な養育方法の研究が主流である。例えば、家畜の飼育環境としての地面やワラ、群れの構成、気候、光、騒音と豚の断尾など、豚の健康への影響に関する研究が主で、ストレスに関する研究はほとんどない。そのため、今回の四学会で、初めて動物心理学や動物のストレスに関する様々な研究に触れることができ、とても新鮮で、面白かった。中国においても、このような多様な研究が展開できれば、素晴らしいと思った。


 世界中で、乳製品や畜産物の一日の消費量はとても多く、自由貿易により畜産物の流通量も多くなっている。それに対して、畜産品の輸出や安全性のルールを注目しなければならないと思う。このように、畜産業は非常に重要な産業であるが、日本を除いて、アジアのほかの国においては、研究はあまり盛んではない。私は、今行なっている研究をより頑張ることで、将来、中国さらにはアジアの動物研究や動物福祉、動物保護、畜産業などに微力ながら貢献したい。



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◇Animal 2011応用動物行動学会・日本家畜管理学会企画シンポジウム参加報告

加瀬ちひろ(麻布大学大学院獣医学研究科 博士後期課程3年)


 9月8日から11日まで、日本動物心理学会、日本動物行動学会、応用動物行動学会、日本家畜管理学会の四学会共催のAnimal2011が慶応義塾大学三田キャンパスにて開催され、9日には応用動物行動学会・日本家畜管理学会企画シンポジウムが行われた。シンポジウムのテーマは、ヒトとの間に軋轢を生じている野生動物、特にイノシシ、カラス、アブラムシの3種に関する行動特性を知り、被害対策に活用するという内容であった。


 麻布大学に所属し、島根県で鳥獣専門指導員をされている堂山宗一郎氏は、T字迷路、Hebb-Williams迷路、水迷路などを用いた、イノシシの学習能力に関する研究の発表をされた。マウスやラットでは馴染み深いこれらの迷路実験は、大型の哺乳類ではほとんど行われておらず、警戒心の強いイノシシを供試するには、長期間にわたる根気強い馴致訓練と実験方法の工夫が必要とのことだった。Hebb-Williams迷路では学習速度スコアが算出でき、イノシシの学習速度は、これまでに報告されている他の動物種の成績と比較して、ウマをしのいでトップであった。これまでは、警戒心の強い野生動物は実験で実力を発揮しにくく、能力を過小評価されてしまうことが懸念されていたように思う。しかし今回の発表から、実験手法を適正に行うことで、正しい評価が可能であることが証明されたと感じた。イノシシの学習速度が速かったのは、実験動物や家畜とは異なり、生きるか死ぬかの緊張感ある日常を過ごしている野生動物だからこそなのかもしれない。


 宇都宮大学オプティクス教育研究センター所属の塚原直樹氏は、カラスの視覚特性や音声コミュニケーション能力を逆手にとった被害対策について発表された。カラスの網膜の視細胞には、UV感度の高い視物質や4種類の油球が存在していることが組織学的に示されており、さらに食品サンプルと食物を見分けることから、行動学的にも紫外線が可視光であることが解明されたとのことだった。この視覚特性を利用し、ゴミの食い荒らし被害を防止するため、カラスには袋の中身が見えない紫外線カットのゴミ袋を開発し、実用化に至ったそうだ。実験では紫外線カットフィルムを貼ったゴミ袋は、ほとんどつつかれなかったとのことだが、実際に町中で使用すると、中身が見えないためゴミ袋を手当り次第につつき、ゴミを散らかしている場合もあるそうだ。もともとゴミの食い荒らし被害があった地域では、ゴミ袋の形を見てそこに餌があるとカラスが学習しているため、ゴミ袋の中身が見えなくても袋をつつく行動が継続されたのだろう。実験室の結果が、そのまま現場でも同じ結果になるとは限らず、被害対策を行う上では様々な状況を考慮しなければならないと感じた。紫外線カットゴミ袋を効果的に使うためには、カラスの学習を消去させるなどの工夫が必要と考えられるが、私の頭では上手い方法がすぐには浮かばなかった。今後は発想を転換させた使用方法が期待される。


 東京農工大学所属の八島圭佑氏は、生物農薬の利用として寄生蜂を使ったアブラムシの行動制御について発表された。アメリカの一部では、生物農薬として寄生蜂がすでに利用されているが、日本に導入するためには供給の安定化や、効果の評価法の検討などが課題として上げられた。寄生蜂に寄生されたアブラムシはマミーと呼ばれ、寄生蜂に行動を制御される。クモやチョウ類に寄生する種では、自分の身を守るために寄生宿主に頑丈なクモの巣を張らせたり、二重の蛹を形成させたりするそうだ。アブラムシでも同様に、自己防衛のため隙間に移動するよう行動制御をしており、これを利用して効率的にマミーを回収することが可能になった。また同様の方法で、寄生蜂の効果を評価する方法を検討しているとのことだ。生物農薬の利用は、実用化に向けて様々な課題をクリアしなければならず、利用の際には生態系への影響や二次災害の可能性などを考慮する必要があるだろう。しかし、方法の選択肢を豊かにすることに大きな意義があるのだと感じた。


 今回のシンポジウムで発表された内容は、どれも実学ばかりで枠に囚われず、自由な発想が盛り込まれていた。実学だからこそ、実験や現場での利用時に考慮しなければならないことが多くあるが、それがまたこの分野の面白い部分であると改めて感じた。


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“ISAE2015日本開催決定”
ISAE2011 Council meeting & AGM 報告



植竹勝治 副会長・ISAE East Asia regional secretary(麻布大学)




 今年のISAE(国際応用動物行動学会)では、Council meetingが7月31日9:00-17:00に、AGMが8月3日15:30-17:30に、Hyatt Regency Indianapolisを会場に、それぞれ開催されました。そこで決定された事案の中から、ISAE日本会員のみならず、応用動物行動学会員にも関係すると思われる事項は、次の通りです:


①国際学会開催地の決定:2013年ブラジル、2015年日本
(ちなみに、2012年オーストリア、2014年スペイン、2016年スコットランドは既に決定済み)
②Regional meeting助成金の支給:申請に応じて年500ポンドを支給(これまでは返済が条件)
③Honorary fellow(名誉会員)の推戴:日本に馴染みのあるDr Harold Gonyouの認定式をAGM冒頭に挙行
④Council positions(役員)の交代・選挙:President(会長)をはじめ、約半分の役員が交代、新会長はProf. Anna Valros(Finland)


 ①に関して、Councilから、2015年日本開催では、インド(2017年以降の開催を希望)や中国など、域内の新興国との連携強化が要請されました。それに向け、応動行動学会との間で、上記②の助成金を活用した応動行動学会春季研究発表会とのJoint meetingの開催を模索しています。サッカーのキリンカップではありませんが、このような国内でのプチ国際学会の開催は、2015年本大会に向けた助走としてのみならず、大学院生をはじめとする若手研究者の良き鍛錬の機会となることが期待されます。


 今年のISAEは、合理主義&自由の国であるUSAらしさ満載。本学会でのスピーチを除き、Social programでは、一切堅苦しい来賓挨拶がありませんでした。ただ集まり、ひたすら自由に飲み食いしながら談笑するのみといった感じでした。私は参加しませんでしたが、ExcursionsとFarewell Partyに、Indianapolis Motor Speedway(カーレース場)やBall park(野球場)が設定されていたのもユニークでした。そうか、こんなやり方もありなんだ、と気づかされました。2015年までの数年間に、前述の通り、サッカーのワールドカップではないですが、地域色が強く出そうな国々が次々と登場します。皆さん、それらに参加し、日本開催のイメージを膨らませていこうではありませんか!


 ISAEの日本人会員は、現在19名です。まだ入会されておられない方は、これを機に是非ともご入会をご検討ください。ISAEのBanquetには、伝統的に生バンド演奏(曲はロックをはじめ各ジャンルカバー)によるダンスパーティーが付いてきます。特にダンス好きの貴方、お勧めします。





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ISAE2011報告


小野寺 温(帝京科学大学大学院 博士後期課程2年)





 2011 年 8 月 1 日から8月 4 日まで、アメリカのインディアナポリスで第 45 回国際応用行動学会議(ISAE2011 Indianapolis、以下 ISAE 学会)が開催された。私は、国際応用動物行動学会派遣等基金からの発表渡航補助金を受けて参加することが出来た。


 8月1日のISAE学会が始まる朝、私は「初めての国際学会での発表だ!」と期待と緊張で押しつぶされそうな気持になっていた。朝、学会から出されたコーヒーを飲みながら様々なポスターを見ていたら、私のポスターを読んでくれている人がいるのを見て、嬉しい気持ちと緊張感が増した。最初のプレナリーセッションが終わった後、すぐに奇数番号のポスター発表となり、私はポスターの前に立ち、研究者に見てもらえる機会に期待を膨らませながらも緊張する時間を過ごした。最初の質問は、8月2日に訪問するPurdue大学の先生とPhDの学生であった。PhDの学生は、シェルターに保護されている犬で気質研究をしていることから、私の子猫への行動テストの項目についての質問が中心となった。Purdue大学の先生は、主成分分析を行った結果から抽出された因子名に対しての質問や、過去の研究との相違点についての質問を受けた。私の中で、こう伝えたいという思いがあってもなかなか英語にできないことから、伝えたいことの半分くらいが伝わっているだろうか?という感じが続き、もどかしい気持ちと悔しさでいっぱいになった。その後も多くの人に見て頂き質問を受けたが、同じように伝わっただろうか?という自信がないままに発表を終えてしまったことがとても悔しかった。しかし、この発表で様々な人から「この研究は面白いね」や「この行動テストは子猫だけで行ったの?譲渡された子猫はその後どうなったの?」と質問されたおかげで、この後ISAZで発表する内容の話やこの研究を継続していることを伝えて関心をもってもらえたのは本当に良かったと思っている。私は、このような他の国々で研究をしている多くの人に研究を見てもらい、さらには話せるという機会も与えてもらえた事に本当に感謝している。


 また、ISAE学会初日に私が一番興味のあったCompanion Animal Behavior & Welfareのセッションがあり、犬のGuilty behaviorの研究や、シェルターの猫に対して社会性のある猫を見分けるための行動テストの実施等の最新の犬や猫の行動や福祉についての研究を聞くことができ、今後の研究の参考となった。


 また、この日はISAE学会会場の近くで、院生だけでの交流会があった。本来は色々な人と交流できれば良かったが、他の国の研究者とあいさつ程度の会話しかできなかった。しかし、そんな中で現在豚のストレスの研究をしているフランス人のPhDの学生から「他の国の言語は話せるまでに時間がかかるよね。だから僕は、今はカナダに留学して研究しながら英語の勉強中だよ。英語は話すのが難しいけどお互いに頑張ろう」と積極的に話せない私を励ましてくれた。同じPhDの学生で母国を離れて努力を続けている人がいるという姿は、これからの私の励みになった。


 私は、参加助成金のおかげでISAE 学会へ参加することが叶った。初めての国際学会での発表は、私にとって大変貴重な経験であり、今後につながる機会を得られたと感じている。この場を借りて、応用動物行動学会関係者の皆様に深く御礼申し上げます。





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◇ISAE2011 参加報告


柿原秀俊(九州大学大学院 博士課程2年)




 シカゴから長距離バスで3時間半、地平線まで広がるトウモロコシ畑に発電用風車の群れが立ち並ぶ光景を眺めながら到着したこぢんまりとした街で、私にとっては初めての国際学会が始まった。
 日本の応用動物行動学会にもあまり参加したことのない私には、どの発表も斬新なものに感じられたが、紙面も限られているので特に興味深かった発表のみ報告したい。まず、日本にいても十分に肌で感じられるanimal welfare研究の勢いは、国際学会ではさらに強いものだった。painの測定・評価に関する研究は演題数も多く見られたが、どうも感覚的に受け入れ難い領域だと感じてしまった。animal welfare以外では、同様の調査に携わったことがあったため、ブラジルのSant’annaさんらが3つのtemperament 評価法を比較した結果には考えさせられた。また、ニュージーランドのMatthewsさんらのグループが行っていたfeeding motivationの研究では、PmaxとOmaxという指標が用いられていたが、このような手法はこれまで知らなかったので勉強になった。手法といえば、QBA(Qualitative behavioural assessment)を用いた研究が少なくなかったことには勇気付けられた。全員参加の発表では、同じくMatthewsさんのcold stressに関する研究が興味深かった。せっかくアメリカまで来たのだから聞けるものは全部聞くぞという意気込みで挑んだのだが、あまりの詰め込み過ぎに途中頭がオーバーヒートしてしまったところもあった。様々な分野の発表を見て、自分の興味のある領域が応用動物行動学の中でどのような位置を占めているのか少しわかった様な気がする。これは国際学会だったからこそ得られたものという質のものではないのかもしれないが、今回の参加で得られた大きな成果の一つであると確信している。


 自分では、電気牧柵に対する山羊の忌避行動についての研究成果を発表した。今回特に話をしてみたい研究者の1人だった、オーストラリアのLeeさんにコメントをいただき大変嬉しかったが、一方であまり突っ込んだ話はできず、悔しい思いもした。


 今回は大学院生の集いがあり(写真はその時のもので、帝京大院生の伊藤さん・小野寺さんにいただきました)、参加者は気の合った相手と話しこんだり、ビリヤードを楽しんだり、それぞれが思い思いの時間を過ごしたようだ。私も周囲の学生と言葉は交わしたものの、ほとんどはビリヤードの話に終始してしまい、それ以外の話で盛り上がることができなかったのは悔やまれる。とにもかくにも、楽しい夕べを手配して下さった主催者の厚意に感謝したい。


 全体を通してみると、恥ずかしいことに思い切りや語学力が足りず積極的なコミュニケーションが取れないことが多く、後悔も多い学会だった。この反省をバネに、次回に挑戦したい。最後に、今回の参加にあたり旅費の助成をいただいた、応用動物行動学会の皆様に深く感謝いたします。また現地では、植竹先生をはじめとする日本からの参加者の皆さんに多くの手助けをいただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。

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◇《書籍紹介》
  「動物行動図説:家畜・伴侶動物・展示動物」

伊谷原一(京都大学野生動物研究センター)


本年9月10日、「動物行動図説:家畜・伴侶動物・展示動物」が朝倉書店から刊行された。


 実は、1995年に「家畜行動図説」の初版が出版されている。当時は世界的にみても動物の行動目録に関する書籍が乏しかったことから、まずは家畜行動に関する書籍を世に出すということでパイオニア的な役割を果たした。決して十分とは言えないまでも、写真をもとに分かりやすく解説したという点で利用価値は高かった。


 今回刊行された「動物行動図説」は、タイトルが「家畜」から「動物」に変わったものの、できる限り1995年版の行動区分を採用しており、そういった意味では「家畜行動図説」の進化版と言ってもよいであろう。動物種数が増えた分、行動の整理には苦慮したが、それだけ動物行動の多彩さを示していると言えるかもしれない。


 対象とした動物種は、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ニワトリという6種の家畜に加え、伴侶動物や展示動物としてイヌ、ネコ、クマ、チンパンジーの4種が追加された。これは、人間の生活様式や社会環境の変化に伴い、伴侶動物、つまりペットとしてのイヌやネコが私たちの生活に深く関わっていることを反映している。


 一方、主に展示対象となる動物園動物は本来野生動物であり、人為選択の歴史を持たないという点で家畜や伴侶動物とは一線を画する。本来、野生の生息地でしか出会えない動物を身近に見られるというレクリエーション的な要素が強かった動物園だが、近年は環境教育や生涯教育の場として注目されつつある。また、行動学、遺伝学、生理学、認知科学、保全学といった学術分野では、動物園動物を対象とした研究が盛んに行われるようになっている。わずか2種とはいえ動物園動物を取り上げたことで、今後、より多くの動物を対象にしたさまざまな研究が展開される一つのきっかけとなることを願っている。


 「文化的行動」に触れたことも特徴のひとつである。その代表例としてチンパンジーの「道具使用行動」を行動類型に入れている。数十年前までは、動物学の世界に「文化」という概念は決して登場してこないものであった。言い換えれば、「文化」などという崇高なものは人間固有のものとして扱われていたのである。しかし、チンパンジーに限らず、最近はさまざまな動物による文化的な行動が指摘されている。また、類似した行動であっても、種によってその行動の意味が異なる場合も少なくない。種による行動の特異性を深く理解するためには、新たな行動類型を取り入れることも重要であろう。


 「データのまとめ方」には新しい分析方法が追加された。行動の解析に用いられる統計計算法について詳細に解説されているわけではないが、複雑な動物行動データにおいて、どのような統計的方法が適切であるかが分かりやすくかつコンパクトにまとめられている。必要に応じてより詳細な専門書を参考にする指標としては有効なものとなる。


 本書は、幅広い動物種の行動を、写真を使って比較することを試みた挑戦的な企画である。それぞれの写真をじっくりと見比べていただきたい。動物たちの表情やジェスチャー、ポスチャーの多彩さを再認識されるだろう。自分が研究対象とする、あるいは興味を持っている動物が見せる行動の意味を知ることで、新たな動物観が生まれてくるに違いない。動物行動を深く理解するという意味ではまだ不十分なものかもしれないが、成長途上にある本ということで、今後のさらなる発展が期待される。


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◇編集後記

 深澤 充(東北農業研究センター)



 秋も深まり、寒さも厳しくなりつつあります。


 9月に、岩手県花巻市で行われる「花巻まつり」を見に行ってきました。お祭りでは山車に加えて、様々な流派の「鹿踊り」が披露されます。起源は、殺されたシカのための供養説や、山のシカの踊りを真似た遊戯模倣説、春日大社と結びつけた奉納起源説などさまざまあるようです。宮沢賢治は「鹿踊りのはじまり」という作品の中で、鹿(自然)と人間の関わりを美しく、そして哀しく描いております。読書の秋です、是非ご一読を。


 次回のニュースレターは1月頃の発行になります。3月の応用動物行動学会に関する記事を掲載する予定です。お楽しみに。





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